2023.4.12
4.相続人の判断能力が不十分な場合等の注意点
相続人が認知症等で意思能力を欠いていても、原則として相続権を有し、相続人となることに変わりはありません。これは、相続を放棄したい場合と異なり、「相続する」際に特段の意思表示は必要とされていないためです。
但し、重度の認知症等により判断能力が著しく不十分であったり、欠いている場合などにおいては、(本人の財産権を法的に保護する必要があるため)遺産分割協議や相続放棄を行うには、成年後見人等又は任意後見人(※判断能力が十分な時に契約した任意後見契約が存在し、かつ代理権目録に代理権の範囲として記載がある場合に限る)を代理人として立てる必要があります。
<もっと詳しく!>
相続は、被相続人の死亡によって開始し、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
そして、共同相続人は、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができるとされており、それが遺産分割協議です。
ただ、遺産分割協議は、相続人全員が参加して行う必要があります。
遺産分割協議は「法律行為」のひとつであるため、「意思能力」が必要となります。
「法律行為」とは、法律関係を変動させようとする意思にもとづく行為のことで、意思表示によって、一定の法律効果を発生させる行為のことをいいます。
「意思能力」とは意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力を指します。
一般的には10歳未満の幼児や泥酔者、重い精神病や認知症にある者には、意思能力がないとされています。
すなわち、認知症の人は判断能力が不十分であり、基本的に法律行為を行うことができないとされているので、遺産分割協議に参加することができません。法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効となります。したがって、相続人に認知症の人がいる場合、遺産分割協議ができないという事態になります。
(参考条文:民法第3条の2、第882条、第896条、第907条)
そのような場合、成年後見制度を利用し、相続人の代わりに成年後見人等が遺産分割協議をする方法があります。
成年後見制度には任意後見制度と法定後見制度があります。
<任意後見制度について>
本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる人と、将来その人に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておきます。そして、本人の判断能力が不十分になった後、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。
相続人が任意後見契約を結んでいて、契約で定めた内容に遺産分割協議を代わって行うことが含まれていた場合、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立を行うことで、任意後見が開始され、任意後見人が相続人の代わりに遺産分割協議を行うことができます。
※注意点※
・任意後見契約の内容に遺産分割協議が含まれていない場合は、任意後見人が相続人の代わりに遺産分割協議を行うことはできません。
・任意後見制度では、任意後見監督人の選任が開始条件であり、選ばれた任意後見監督人が弁護士等専門職であった場合、報酬が発生することがあります。金額は、相続人の財産状況などをふまえて家庭裁判所が決定します。
<法定後見制度について>
法定後見制度とは、認知症・障害等によって判断能力が不十分な場合、本人の権利を法律的に支援、保護するための制度です。
本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3類型があり、判断能力を常に欠いている状態場合は成年後見人を、判断能力が著しく不十分な場合は保佐人を、判断能力が不十分な場合は補助人を裁判所が選任し、本人を支援します。
成年後見人は、契約等について包括的に代理する権限を有します。
後見に該当した場合、家庭裁判所に選任された成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することができます。
保佐人は、法律で決められた重要な行為について同意権を有し、申立てにより、同意権の範囲を広げたり、特定の法律行為について代理権を付与することもできます。
補助人は、申立てにより、法律で決められた重要な行為の一部について同意権が付与されたり、特定の法律行為について代理権が付与されたりします。
保佐・補助に該当した場合、家庭裁判所の審判の内容により、本人が遺産分割協議に参加することができるが、保佐人・補助人の同意が必要な場合、保佐人・補助人が本人に代わって遺産分割協議に参加する場合があります。
(参考条文:民法第7条、第13条)
※注意点
・後見開始申立をする際、後見人の候補者を推薦することはできますが、選任権限は裁判所が有するため、必ず選ばれるというわけではありません。
申立を行った後は、裁判所の許可がないと取り下げることはできません。したがって、推薦した候補者が選任されそうにないからといって、取り下げることはできません。
・成年後見人が選任されると、遺産分割協議等当初の目的が完了した後も、相続人が意思能力を回復するか亡くなるまで続きます。
後見人は家庭裁判所に毎年1回、報酬付与の申立をすることができます。金額は、本人の財産状況や後見人の行った仕事量に応じて家庭裁判所が決定します。
・成年後見制度は判断能力が十分ではない人を守るためことを目的とする制度であるため、成年後見人が遺産分割協議に参加する場合は、原則として相続人の法定相続分を確保した内容である必要があります。
申立をしてから審判が出るまで1か月から長いと半年近くかかる場合もあります。
申立に必要な書類が多く、申立準備にも時間がかかるため、できるだけ早めに専門家に相談するようにしましょう。