2023.4.13
7.「借金(金銭債務)」の調査方法
「借金があるかどうかわからない」場合の基本的な調査方法として、
①「指定信用情報機関(CIC・JICC・JBA)」に対して相続人であることの公的証明書類(戸籍謄本等)
を提出したうえで、相続人の立場から亡くなった方に関する信用情報の開示請求を行う方法
があります。但し、いわゆる「ヤミ(090)金融業者」や「友人・知人・親族」からの借り入れは開示対象とならないので、
並行して、
②借用書等の書類があるかどうか
③通帳で返済記録がないか
④不動産に担保権が設定されていないかどうか
⑤税金や公共料金等の滞納がないかどうか
といった方法でも確認が必要です。
<もっと詳しく!>
●はじめに
相続が始まると、相続人全員で遺産をどう分けるか協議をする、もしくは遺言に沿って遺産を相続しますが、遺産はプラスの財産のことだけではありません。
マイナスの財産、いわゆる「借金」も遺産に含まれます。亡くなられた方(以下、「被相続人」という。)が借金をしていた場合には、借金を誰が承継するのか
についても、決めなければなりません。また被相続人が借金をしていたか不明のときには、どのように調査するのかを詳しく見ていきます。
●信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)
借金の基本的な調査方法として、信用情報機関に対して被相続人に関する信用情報の開示請求をする方法があります。
〈信用情報機関とは〉
信用情報とは、信用取引に関する客観的な取引事実を表す情報です。例えば、クレジットカードの利用やスマートフォンの機種代金を分割で購入、車や家のローン等が挙げられます。
その信用情報を記録・管理するのが信用情報機関です。
信用情報機関は、様々な会社に会員として加盟してもらうことで、情報を取得しています。
会員として加盟する会社は、加盟することによって顧客の信用情報を確認することができるようになるので、新たなローンの審査やクレジットカードの発行審査の際に、判断材料
として顧客のローン残高や支払い能力を見ることができます。
国内では指定信用情報機関であるCICとJICC、個人信用情報機関である全国銀行個人信用情報センター(JBAや全銀協、KSCともいう。)の3社があります。
CICは主にクレジット会社、JICCは主に貸金業者、全国銀行個人信用情報センターは主に銀行が会員となっています。
注意点:信用情報機関は3社ありますが、一括して開示請求することはできません。1つの信用情報機関に開示請求をしても、その信用情報機関に加盟している会社の情報しか開示されないため注意が必要です。被相続人がどこかで借金をしていた可能性があれば、念のため全ての信用情報機関に開示請求すると安心でしょう。
(参考条文 割賦販売法第35条の3の36第1項、第35条の3の45)
(参考条文 貸金業法第41条の13第1項、第41条の22)
開示請求するには相続人であることの証明書の提示が必要となりますので、法定相続証明情報や戸籍等の公的な証明書類を準備しましょう。
注意点:相続人であると分かる戸籍は、被相続人と自分がどの関係にあるかによって必要な戸籍が変わります。被相続人が配偶者や親であれば、被相続人の死亡の戸籍・自分の戸籍があれば相続人であると証明できます。被相続人が子の場合は、被相続人にまず実子・養子がいないことを証明しなければならないので、出生から死亡までの戸籍が必要となります。被相続人が兄弟姉妹であれば、被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、親が亡くなっていると分かる戸籍が必要となります。最終の手続の際にはきちんと戸籍を揃える必要がありますが、調査の段階では、被相続人との関係が分かる戸籍があれば可能であることを覚えておくと、スムーズに調査を進められるかもしれません。
(参考条文 民法第887条、第889条、第890条)
●その他の借金について
前述した信用情報機関では開示対象とならないのが、国や都道府県に貸金業としての登録を行っていない業者(いわゆるヤミ金融業者)や「友人・知人・親族」からの借入です。これらを調査するには、手掛かりになりそうなところを探して確認する他、方法はありません。具体的には下記が挙げられます。
① 借用書等の書類があるか
ヤミ金融業者から借り入れた場合は、借用書や契約書、名刺、チラシが残っている可能性があります。
亡くなられた方のご自宅などを探してみてください。友人・知人・親族であっても、書面で残している可能性があるので探してみると良いでしょう。
② 通帳で返済の記録がないか
まとまった金額が入金・出金されている場合は、その振込先・振込元をたどれば貸主にたどり着けるかもしれません。
③ 不動産をお持ちであれば、担保権が設定されていないか
亡くなられた方が不動産をお持ちの場合、お金を借りる際、返済できないときのために不動産を担保にし、
万が一返済できなかったときにはその不動産を貸主に渡して借金を精算する契約をしている可能性があります。
不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して確認すると良いでしょう。
(参考条文 民法第342条、第369条、第398条の2)
④ 税金や公共料金等の滞納がないか
税金や公共料金等の支払いが滞っている場合は、延滞料金が課されることもあります。
まずは督促状などが届いていないかを確認しましょう。
●法定単純承認
プラスの遺産の処分後に、知らなかったマイナスの財産が出てきて「やっぱり相続放棄したい」と思っても、
原則として相続放棄はできなくなってしまいます。これを「法定単純承認」といいます。
(参照条文 民法第921条)
●終わりに
相続が発生したら、遅滞なく遺産の全容を把握する必要があります。漏れのないよう調査するのは一般の方では難しい部分も多いので、
流れを整理するためにも専門家に一度相談してみると良いでしょう。